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AI にコードを書かせる時代こそ基本が効く ― Matt Pocock 氏のワークショップに学ぶ、AI コーディングの進め方
AI エンジニア向けの会議 AI Engineer Europe 2026(ロンドン、2026年4月8〜10日)で行われた、約1時間36分のワークショップです。TypeScript の教材 Total TypeScript や、AI コーディングの教材 AI Hero を手がける Matt Pocock さんが、あいまいな要望から始めて、AI エージェントに実装を任せ、人が QA で仕上げるまでの流れを実演しました。8つの場面を取り出し、約9分で読み解きます。
要点
- 公式Pocock さんは、仕様書を AI にコードへ変えさせ、コードは見ずに仕様書だけを直す「specs to code」を試したが、うまくいかなかったと述べた。代わりに、AI に自分を質問攻めにさせる「Grill Me」で設計の共通理解を作り、垂直スライスとテスト駆動開発で実装を任せる流れを実演した(AI Engineer の公開動画と講演ページ)。
- 未確定示された流れの効果を数字で比べたデータは示されていない。実演は Pocock さんの教材用のコードベースで行われ、大きなチームや既存の大規模なコードでどこまで通用するかは分からない。
- 見立てAI にコードを書かせる時代でも、仕事の分け方、テスト、モジュールの設計といった昔からの基本が、AI の出来の上限を決める。道具を選ぶより先に、コードベースとテストを整えたい。
意思決定への示唆
見立て01
自組織への影響
AI に実装を任せるほど、人の仕事は、要件をすり合わせる前工程と、QA とコードレビューの後工程に寄っていきます。コードベースの形とテストの質が、そのまま AI の出来を左右します。
02
リスク
仕様書だけで AI に作らせると、コードを誰も理解していない状態になりがちです。テストや型チェックが弱いコードベースでは、AI の出力の質は上がりません。すべてを自動にすると、使い心地の悪いものができる恐れもあります。
03
次の一手
AI に任せたい機能を一つ選び、AI に質問させて要件を詰めます。そのうえで、画面からデータまでを細く貫く最初のスライスを、テストを先に書く形で作らせ、人が QA します。うまくいかない場所は、モジュールの切り方とテストから見直します。
公式/報道/未確定の整理
公式
- AI Engineer Europe 2026 は2026年4月8〜10日にロンドンで開かれ、この動画はその中のワークショップ。YouTube での公開は4月24日(AI Engineer の講演ページ)
- Pocock さんは Total TypeScript と AI Hero の作者で、TypeScript と AI コーディングエージェントを使った開発を教えている(AI Engineer の講演者ページ)
- 講演ページは要点として、作業を「賢いゾーン」に収めること、Grill Me で曖昧さを解いてから PRD にまとめること、依存を踏まえた垂直スライスで進めること、TDD と自動レビューで実装を任せつつ QA とコードレビューは人が持つこと、小さなインターフェースの深いモジュールを好むこと、を挙げている(AI Engineer の講演ページ)
- ワークショップで使った Grill Me やテスト駆動開発(TDD)のスキルは、Pocock さんの GitHub リポジトリ mattpocock/skills で公開されている。Grill Me の今の版は、計画や設計について共通理解に至るまで、ユーザーに質問を続けるよう指示している(GitHub)
- 垂直スライス(トレーサー弾)は『達人プログラマー(The Pragmatic Programmer)』、深いモジュールと浅いモジュールは John Ousterhout の『A Philosophy of Software Design』にある考え方。Pocock さんは、タスクを小さく保つ助言として、Martin Fowler の『Refactoring』にも触れている(動画と各書籍のページ)
報道
- The Pragmatic Engineer(2026年9月17日)は、Pocock さんへのインタビューで、AI コーディングのスキルとエージェントの使い方、そしてエンジニアリングの基本がこれまで以上に大事な理由を取り上げた
未確定
- 示された流れの効果を数字で比べたデータは示されていない。実演は Pocock さんの教材用のコードベースで行われたもので、大きなチームや既存の大規模なコードでどこまで通用するかは分からない
- 「賢いゾーン」を約10万トークンとする目安は、本人の経験則。Pocock さんも、モデルの進歩で広がりうるとしている
- Grill Me などのスキルはその後も更新されていて、動画の時点の内容と今のリポジトリの内容は同じではない
出典
- 埋め込み動画:Full Walkthrough: Workflow for AI Coding — Matt Pocock(AI Engineer、2026年4月24日公開)
- AI Engineer「Full Walkthrough: Workflow for AI Coding — Matt Pocock(講演ページ。書き起こしと要点つき)」(2026-04-24)
- AI Engineer「Matt Pocock(講演者ページ)」
- Matt Pocock「mattpocock/skills: Skills for Real Engineers(GitHub)」
- The Pragmatic Bookshelf「The Pragmatic Programmer, 20th Anniversary Edition」
- John Ousterhout「A Philosophy of Software Design」
- Martin Fowler「Refactoring」
- The Pragmatic Engineer「AI Skills with Matt Pocock」(2026-09-17)
このページについて
解説の音声は筆者の声をもとにした合成音声、アバターは Unreal Engine の MetaHuman で作った CG です。埋め込み動画の権利は公開者に帰属します。本ページは、動画の公開者による推薦や監修を受けたものではありません。
動画の埋め込みの確認日:2026年9月27日。このページの公開日:2026年9月27日。
訂正履歴
訂正はありません。
解説
AI にコードを書かせる時代こそ、ソフトウェア工学の基本が効く。ロンドンの AI Engineer で、マット・ポーコックさんが示した開発の流れを、8つの場面で見ていきます。
ポーコックさんの出発点です。AI は新しいパラダイムだと言われますが、人と働くために大切だった、ソフトウェア工学の基本は、AI にもよく効く。このワークショップは、それを確かめる流れになっています。
仕様書を書き、AI にコードへ変えさせ、結果が悪ければ仕様書だけを直す。この、仕様書からコードへ、というやり方を試したが、うまくいかなかった、と言います。コードを理解し、形を整え続ける必要があるからです。
代わりに使うのが、AI に自分を質問攻めにさせる、Grill Me です。数十の質問で設計の穴を埋め、AI と設計の考えを共有する。共有できていれば、まとめの文書は読み込まなくてよい、という考えです。
AI は、データベース、API、画面と、層ごとに作りたがります。これでは、全部がつながるまで確かめられません。そこで、全部の層を細く貫く、垂直スライスに分け、早くから動作を確かめます。
計画は人のデイシフト、実装は AI のナイトシフト。人が昼のうちに課題を並べておけば、AI は人の手を離れて、作業を進められる、というたとえです。
実装では、まず失敗するテストを書かせ、それを通すコードを書かせる、テスト駆動開発を使います。テストや型チェックのないコードベースでは、AI は手探りで書くしかない。ループの質が、出来の上限を決めます。
人の役目は、QA とコードレビューです。ポーコックさんは、QA で自分の好みやセンスを持ち込むと言います。すべてを自動にすると、センスのない、質の低いアプリになりやすい、という指摘です。
最後はコードベースの形です。小さなファイルが入り組む、浅いモジュールでは、AI は依存をたどれず、テストの境目も引けません。小さな入口に多くの機能を持つ、深いモジュールに寄せると、テストしやすくなります。
仕様書から直行せず、質問攻めで設計を共有し、垂直スライスとテストで確かめ、深いモジュールに寄せる。悪いコードベースからは、悪いエージェントしか生まれない。AI の時代こそ、名著に書かれてきた基本が効く、というのが結論です。